東北芸術文化学会

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虎尾 裕 作品展評

虎尾 裕 作品展評

 

 

「群生林」より「稜線」へ

Gregarious Forest 2001”~“Ridge 2011

 

 

 

 2011年5月10日(火)~15日(日)の期間、仙台市青葉区錦町1-12-7門脇ビル1Fの「SARP 仙台アーティストランプレイス」において、会員虎尾 裕[作品展]が開催された。旧作と新作を一つの空間に設置したので、タイトルが「『群生林』より『稜線』へ」と命名されたのであろう。ただし今回の展評では紙数の関係もあり、新作についてのみ批評する。

                                              

 会場に入るなり作品の部分である表面に目がいった。それはスプーンカット状の面を複雑に連ならせることによって、凸面の形態が排除され石特有の重量感を消去するようにしてあり、私たちが見慣れた彫刻とははなはだ印象を異にするからである。石材特有の肌合いをあえて打ち消し、別の物質として感じさせるようにしている。かくて普通の彫刻作品に対すると同じようなスタンスはここで通用しなくなる。

 

作品全体を見ると背が高く薄べったりで剣先鋭い塊が、峰々の稜線や尾根のような部分を有してそそり立っているようでもある。山並みに例えるならば、氷雪にすっぽり覆われている峰々と、風塵に岩肌をさらけ出している峰々が、同じ山域に連なっている。作品はそうした情景をイメージさせ、ここに新たな彫刻ジャンルとしての特性が認められる。気候における強烈な反立的対比として捉えることができよう。なおかつ動物の脊椎のようでもあり、生物が土砂や氷雪を押しのけて進んでいるようでもある。それは生命感や胎動するエネルギーのようなものを感じさせる。

 

いずれも山の稜線を思わせるが、一方が開放された円弧状の砂岩の方は乾燥地の、一直線状の大理石は極寒の地のもののようだ。乾燥を特性とする砂漠の自然、極寒を特性とする氷雪の自然は私たちの想像を絶して非情である。そこにある冷厳な自然の表情を見逃すわけにはいかない。

 

しかし作者はこうした否定的感覚をまともに引き受けようとしているように思われる。日常的な生の否定である非情な自然の厳しさが、都市の無機質的な一室における虚構的な美感へと転換されているのである。そこには現実に体験されるであろう自然美感と、人工的芸術的に再現された、いわば虚構的な自然美感との対比が認められる。以上あげてきた対比意識の交錯によって醸しだされる、美的情趣こそ虎尾芸術の核心でもある。

 

 

〔文:東北芸術文化学会会長 立原慶一〕



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