東北芸術文化学会

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岡倉天心展コロキウム


「『藝術教育の歩み 岡倉天心展』コロキウム」趣旨


司会  齋 藤 稔


 

 東京芸術大学は創立120周年を記念して同大学美術館において『芸術教育の歩み 岡倉天心展』を開催しています。以下に述べるように、同展は岡倉天心の広範囲な芸術文化の活動を網羅して画期的な展覧会となっています。 

岡倉天心は東京美術学校の創設に関わって明治23(1890) 校長に就任し、日本で最初の専門的な造形芸術の教育を基礎づけて近代的な美術アカデミズムの教育システムを作り、同時に日本の伝統的な古典的美術・工芸を実地に見学し、調査し研究して日本美術史研究の素地をつくり、またすぐれた諸作品の模写や模造、作品の保存と修復などを行わせ、これらを教育資料として用いて収蔵しました。また各ジャンルの教授陣の配置や若手作家の養成、技法的習練や技術的成就、展覧会や博覧会の実現などにいたるまで多様多彩な芸術活動の業績を残しています。同展はそれらの多種多彩な活動を豊富に伝えています。

天心はフェノロサら外国人教師、画家や工芸家、森鴎外ら有識者との交流を通じて諸外国における芸術や文化の事情を把握し、自ら日本の古美術を精査して古来からの特有の芸術性と精神性に貫かれたすぐれた価値を認識し、美術史的な位置づけと美的芸術的な評価を行い、それらを美術教育に生かしました。いち早く『大日本美術新報』、また『国華』などの美術研究誌の創刊、東京、奈良、京都に博物館の創設、またいくつかの地にモニュメンタルな野外彫刻の設置、美術協会の発足など、その業績は校長としての教育研究だけでなく、在任中に日本美術の文化的意義とその文化社会学的役割を認識して言説にし、作品購入や模写模造や資料収集によって造形芸術の学術的な向上をはかりました。

同時に帝国博物館の美術部長として、各種作品の収集と、オリジナル作品の模写・模造・摸刻の複製制作や保存修復などを推進するなど博物館事業を強力に進め、美術鑑賞を広め、ミュージアムの近代的社会における役割を強調し、また文化財の保存と保護にも尽力しました。そのために文化行政に対しても必要にして充分な発言と表明を行いました。

天心は明治31年(1898)に校長を辞し博物館職も退きましたが、その後も東京美術学校では彼の影響が続き、新しい改革を促して、近代的な専科大学の専門教育・研究のシステムが一層整えられていきました。他方、美術界を啓発し、日本画会や日本美術院の創立、諸工芸団体の設立、各美術学校の開校など、社会における新芸術の創造、美術教育の普及と拡充をも促しました。そして退官後は、和文と英文による著作活動、『日本の覚醒』、『茶の本』、『東洋の理想』などを出版し、インドを訪ね、中国にも渡り、アメリカに招かれるなど外国でも日本文化の紹介や普及に尽力しました。五浦の六角堂においても大観、観山ら弟子たちと交流し、晩年も自らの理想や想念をもって指導し続けました。

 

 このように、天心は明治という近代の黎明の時代、近代を築く国家社会という新たな時空の広がりにおいて、そして中国や欧米列強の国際的環境の中で壮大な文化的ヴィジョンをもって志向的に行動しなければなりませんでした。日本で最初の人文学者として、芸術思想家として、美術教育者、美術史家、評論家、文化財保護官、美術行政官、博物館キュレーターとして、総じて広範な学問と芸術の全人的人物として、今日的にはトータルなアート・プロデューサーとして活動しました。その学術的営為はつねに学問・芸術の広がりと浸透をはかる文化的戦略、さらに文官・行政官としての国家的戦略を自ずからのうちに自覚し、大いなる社会的人格の持ち主として世の中のために尽力しました。学術的には人文学の偉才として記されてよいでしょう。

展覧会は、「天心と東京美術学校」、「天心の理想」、「芸術教育の現場」、「芸術と社会」、「理想は彼方に」、の5章に分節されています。この機会に岡倉天心が日本の近代の黎明期に芸術文化の諸領域で果たされた数々の偉業を、学術的に吟味し検証することも必然のことと思われます。この展覧会に関して、天心の偉業は広範に及び、多岐に亘るのでさまざまなアプローチが可能と考えられます。しかしこの研究集会は天心の芸術文化の諸活動を主として芸術学の視座から追究したいと考えています。

私たちが『芸術教育の歩み 岡倉天心展』を鑑賞した後に、その大学美術館の会議室をかりてこのコロキウムをもつことは意義深く、この機会を与えて下さいました東京藝術大学教授大学美術館の薩摩雅登氏をはじめ関係の方々に厚く御礼を申し上げます。

このコロキウムは、去る1010日に急逝された元東京藝術大学学長山本正男先生がかつて「比較芸術学共同研究」を推進されて以来私淑してきた私が、生前に伺っていた故先生のお考え、岡倉天心に関する芸術学的研究に関して、このコロキウムに関心をもつ方々と相談し、東北芸術文化学会とアルス・ウナ芸術学会の委員会にはかって学会の主宰として開催することに至ったことをお伝えします。また大学美術館の方針として、推奨しています学会や研究機関との連携による学術的なコーオペレションを受けて、私たちの学会もその意向に沿って計画しました。今回のコロキウムはその点でも期待されるでしょう。

最後に、コロキウムのテーマを芸術学の視座を主眼として、「岡倉天心の総合的芸術活動?芸術学的視座からのアプローチ」と致します

これに関連して、天心の学術的な成就として、東京美術学校における近代的美術アカデミーの形成、日本における近代的芸術教育の実現?ヨーロッパの美術アカデミーとの比較芸術学的研究、に触れることができればよろしいと考えております。

皆様には同展を見学されて、このコロキウムにご参加下さいますようにご案内致します。


 

東北芸術文化学会・アルス・ウナ芸術学会共催

 

藝術教育の歩み 岡倉天心展』コロキウム」

 

 

日 時:平成191110日(土)  1530~自由に見学

                      コロキウム 171519 : 00

        

会 場:東京芸術大学大学美術館2階会議室

 

 

 

アルス・ウナ芸術学会事務局

108-8345 東京都港区三田2-15-45

慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻前田研究室

Tel. 03-3453-4511(内線23080) Fax. 03-5427-1528

Mail;  PXE03725@nifty.com

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