東北芸術文化学会

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保科弘治 絵画展評

保科弘治 絵画展評

 

 
平成22年11月25日(木)~12月14日(火)、寒河江市美術館で東北芸術文化学会監査役保科弘治氏の絵画展が同氏絵画展実行委員会主催、寒河江市教育委員会・寒河江市美術研究会共催で行われた。サブタイトルは「大地の息吹きとぬくもりと…こだわりの美を求めて」である。筆者が訪れたのは終了が間近な12月9日であった。エスカレーターで3階まで上がると、60点の大作が所狭しと展示されていた。これほど大規模な個展になることを予想だにしていなかったので、会場全体にみなぎる造形的な迫力に圧倒された。作品それぞれに独自な魅力があり、表現技術的に一点たりともゆるがせにされていないと見た。

 それらは各種展覧会にチャレンジし、審査員から注目を浴びた力作である。そうした内情がすぐに感じ取れた。それを裏付けるように、山形大学の遠藤賢太郎先生が本絵画展のために寄稿された文章に、県美展や中央展での「華々しい活躍」が記されていた。油彩と日本画を取り混ぜた作品群を鑑賞して、創作意欲の旺盛さと審査員をうならせてきた作家性に、感服しないわけにいかない。

 作品を分類すると「風景画」と、風景が背景に描かれているものの人物がメインとなる「人物画」の二つに分けることができた。風景画で扱われている題材は山形の「棚田」「農村」「山岳」「名所旧跡」であり、同地に特有な「人物画」では「岩海苔採り」「農業、工業、漁業の各種作業現場」「黒川能」である。作品の傾向が時代とともにどのように変わっていったか。それをじっくりと考えながら鑑賞することは、筆者の楽しみの一つであってきた。だが今回、制作年度が示されていないので、それもままならない点が惜しまれた。

 東北地方における冬枯れの寂寥や、凍てつく寒さなど冷厳な自然の表情、その中で働く人間の過酷な様子が描かれていた。しかし氏の描写・彩色法はそうした日常的な生の否定である非情な自然の厳しさを、穏やかさとぬくもりという美感へと転換させるのである。他方で、作品は地方社会の過疎化、地域産業の斜陽化などやや気が滅入るようなものが、主題として意識されている。しかし空間構成法ではしっかりと画像相互を結びつけ、構図法では各モチーフ間にまとまりをつけることによって、画面は快活さを帯びるとともに、主題表現力を大いに発揮する結果になったと思われる。それが保科芸術の魅力に違いない。

〔文:東北芸術文化学会会長 立原慶一〕

 

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